国民の暮らしに欠かせない電気を2030年にはなにを電源に確保するのか、電源構成案を検討してきた政府の長期エネルギー需給見通し小委員会が報告書をまとめ、国民から意見公募を始めました。22~20%は原子力で、22~24%は水力、太陽光、風力など再生可能エネルギーで調達するというものです。安倍晋三政権はこれをもとに30年の温室効果ガスの排出削減目標を26%とすることも定め、主要国首脳会議などで各国に示します。国民が再稼働に反対している原子力を大幅に増やしながら再生可能エネルギーの伸びは抑えるのは、国民の願いとはあべこべです。
原発再稼働を政府が推進
なぜ、こんなあべこべの見通しが作られたのか。それはなによりも安倍晋三政権が昨年決めた「エネルギー基本計画」で、原子力は「重要なベースロード電源」だと、原発再稼働を推進する態度を打ち出したからです。今回の小委員会の報告書は、「国も前面に立ち」再稼働を進めるとまで明言しています。東京電力福島第1原発の重大事故でいまだに避難生活を余儀なくされ、多くの国民が事故を契機に原発への不安をつのらせているのを踏みにじるものです。
全国のすべての原発が停止しているいま、当然ながら原発依存度はゼロです。それでも電力は賄えています。電源の2割以上を原発で賄うとなれば、再稼働を申請している原発を動かすだけでなく、建設から40年たった老朽原発の運転も延長し、さらに古くなった規模の小さい原発は建て替えることにもなります。国民が切望する「原発ゼロ」を遠ざけるものであり、報告書が再稼働に反対する国民の批判を招くのは明らかです。
原発推進のため政府は、エネルギーとしての安定性やコストの問題を持ち出します。しかし、原発が安上がりなエネルギーだと推進してきた政府や電力業界の言い分は、東京電力福島第1原発の事故で完全に破綻しています。いったん事故を起こせば住民への賠償や放射性物質の除染、これから何十年かかるかも分からない廃炉のためにばく大な費用がかかります。東京電力でさえ経営に影響が出ているのに、原発が安上がりだというのは通用しません。
報告書は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは気象条件や天候に左右されるうえ、普及には配電線などのコストがかかると主張し、「導入拡大」と「負担抑制」を両立させるとしています。電源全体に占める割合では太陽光は7%、風力は1・7%にすぎず、諸外国に比べても極めて少ない状態です。開発が進めばコストも安くなるのは明白で、負担抑制は導入を抑制する理由にはなりません。
再生エネ抑制は不当
太陽光に恵まれた九州や風力発電の可能性が高い北海道、東北など、再生可能エネルギーを拡大する条件は十分あります。開発の希望も多いのに、コストがかかるなどの口実でそれを抑えるのは、原発を生き残らせるためです。
国際的な温室効果ガスの削減で不十分な目標しか打ち出せないのも、再生可能エネルギーの活用に消極的で、石炭火力などへの依存を続けるためです。
国民の願いとはあべこべのエネルギー需給見通しは撤回し、「原発ゼロ」の実現と、再生可能エネルギーの活用をこそ急ぐべきです。
(「しんぶん赤旗」2015年6月4日より転載)