原子力規制委員会(田中俊一委員長)が、東京電力福島原発事故後の基準ですでに審査を終えた九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に続いて、愛媛県の四国電力伊方原発3号機について審査書の案を公表しました。
審査に合格したからといって重大事故が起きない保証はありません。原発でいったん事故が起きた場合の避難計画が規制委の審査対象になっていないのは重大です。とりわけ半島の根元に立地する伊方原発の場合、避難計画抜きに審査を進めること自体住民の安全に直結する重大問題です。
事故が起きない保証ない
原子力規制委の審査基準は、それまで「安全神話」に縛られ起きないとしてきた東電福島原発の重大事故を受けて、既存の原発の地震や津波の想定を見直し、事故が起きた場合の電源確保や原子炉格納容器の爆発を防ぐ「ベント」などの対策を盛り込ませたものですが、あくまで当座の対策です。
すでに審査を終えた川内原発や高浜原発の場合も、火山噴火への対策が不十分(川内原発)だとか、集中立地する周辺の原発事故への対策がない(高浜原発)などの批判を呼んでいます。高浜原発については福井地裁が再稼働を差し止める仮処分を決定しました。
伊方原発の場合も、規制委の審査で想定される「基準地震動」の値や津波の高さを見直しましたが、もともと日本有数の活断層である「中央構造線断層帯」が間近にあり、四国の南には大地震を引き起こす「南海トラフ」もあるだけに、想定以上の地震や津波が起きない保証はどこにもありません。
しかも規制委の審査は重大事故が起こる可能性は認めながら、事故が起きた場合の住民の避難計画は審査の対象外です。諸外国では避難計画が整っていない原発は運転を認めないところもあるのに、日本の審査基準はまったく不十分です。避難体制は川内原発や高浜原発でも大きな問題ですが、ましてや伊方原発は東西に細長く突き出た佐田岬半島の付け根です。半島の地形はけわしく、道路は尾根筋の国道と海外沿いの県道の2本だけで、いったん事故が起きれば住民は孤立してしまいます。避難計画が審査に含まれていないのは住民の命にかかわる大問題です。
原発から先の半島部分には約5000人が暮らします。四国電力や愛媛県などの計画では、原発の近くが通れなくなれば、半島の突端に向かい船で逃げるか、ヘリコプターなどで救出されるかしかありません。地震と津波、原発事故が重なる中で、船で対岸の九州に渡るという計画は、文字通り至難のわざというほかありません。
再稼働の強行をやめよ
安倍晋三政権や原子力規制委が東電福島事故を反省したといいながら、規制委の審査に合格さえすれば「安全」だとか事故の際の避難計画は審査しなくても原発を運転させようというのは、まさに電力業界の利益のために国民・住民の人命をおきざりにするものです。安倍政権も規制委も人命軽視の姿勢を根本から改めるべきです。
事故の際の避難計画さえ整わない原発の運転に住民が反対するのは当然です。原発再稼働は強行せず、原発は停止したまま「原発ゼロ」に向かうことこそ圧倒的多数の国民の願いです。
(「しんぶん赤旗」2015年5月23日より転載)