政府の原子力規制委員会は、再稼働を申請している原発のうち九州電力の川内(せんだい)原発(鹿児島県)1、2号機の審査を優先的に進めていますが、九州電力がこのほど審査に必要な申請書を再提出しました。当初の申請を規制委の指摘で修正したもので、再提出で審査は大詰めを迎えます。規制委の審査はその原発が規制委の「規制基準」にあっているかどうかを判断するもので、原発の安全性を保証しません。東京電力福島第1原発事故も収束していないのに作られた「基準」自体、問題が多く、住民の避難計画さえ整わないのに再稼働させるというのは許されません。
安倍政権の主張根拠ない
電力会社と一体で原発の再稼働を急ぐ安倍晋三政権は、規制委の「基準」を「世界一きびしい」といい、「基準」に合格した原発は再稼働させると繰り返しています。東電福島原発事故も収束せず、炉心の溶融がどのように起こったか十分解明されていないのに、「基準」が「世界一きびしい」とか、「基準」を満たしたから「安全」などといえないことは明らかです。
「基準」自体、地震を起こす活断層の評価も甘く、重大事故に備えて設置しなければならない設備の設置に猶予を与えるなど、抜け穴だらけです。原子力規制委の田中俊一委員長も、当初「安全基準」と呼んでいたのを「規制基準」と言い換え、「基準」を満たしても「安全」が保証できるわけではないと繰り返しています。審査が終われば「安全」だという安倍政権の主張に根拠はありません。
九州電力が再提出した川内原発の再稼働申請は、想定する地震の揺れ(基準地震動)を当初の540ガルから620ガルに、取水口での津波の高さ(基準津波)を4メートル程度から5メートル程度に修正しました。当初なかった火山の影響も付け加えました。しかし、これ以上の地震や津波が起きない保証はありません。もともとの耐震設計を変えず、装置を固定したり防護壁を高くしたりしただけで被害がなくせるわけではありません。
東電福島原発の事故では、地震と津波の後、すべての外部電源や非常用電源が停止し、原発に冷却用の水が送れなくなり、原子炉が空だき状態になって炉心が溶融しました。規制委の「基準」はこうした過酷事故への対策を求め、九州電力も川内原発の原子力格納容器を外から冷やすポンプ車を増やすことや、格納容器内に溶け落ちた核燃料を冷やすため原子炉下部にも水位計を設置することなどを追加しました。しかし冷却水が途絶えれば炉心が暴走し、溶融すること自体は止める手だてがありません。対策とは程遠いものです。
避難計画は自治体任せ
何より問題なのは、「規制基準」には住民の安全を守るため原発の立地そのものを審査する指針がなく、万一事故が起きた場合の避難計画などはまったく自治体任せになっていることです。九州電力は規制委の審査が終わったあと周辺自治体と防災計画などの協議を進めるとしていますが、周辺自治体が作っている避難計画には住民から不安が相次いでいます。移動が困難な老人や障害者の避難させる計画さえありません。
住民を放射能被害から守る国際的な「5重の防護」に照らしても再稼働は論外です。再稼働は強行しないことこそ、住民の願いです。