東京電力福島第1原発事故の収束・廃炉関連工事で発生した土砂崩れによる作業員死亡事故は、作業計画の誤りだった可能性が強まっています。施工管理をめぐる東電などの責任のあいまいさを改めて浮き彫りにしました。(山本眞直)
「事故は特殊で気の毒なケースだ。(元請けの)経験不足が原因だ」。こう指摘するのは福島第1原発の基礎工事から関わっているという地元の有力「協力会社」の元社長。
事故は3月28日午後2時20分、原発5、6号機に近い空コンテナ倉庫の基礎杭補修工事現場で起きました。深さ1・7メートルの地中で、杭の損傷状況確認のための掘削作業中にコンクリートと土砂が崩落、作業員の安藤堅(かたし)さん(55)が下敷きになりました。救出されたものの病院で死亡が確認されました。死因は「外傷性窒息」でした。
元請けは東電グループの東双不動産管理会社。安藤さんは1次下請け会社所属で新潟県の出身でした。
重機使うべきだ
「作業計画が間違っている」と指摘するのは耐震補強工事の施工管理の経験をもつ建設関係者。旧三井財閥グループの“迎賓館”で築百年とされる「三井倶楽部」(東京都港区、れんが造り)の基礎補修(2006年)などを担当しています。
関係者はいいます。「東電公表の事故現場の図面と写真をみて、これはやってはならない作業だ、と直感した」。事故現場の断面図(別掲)、写真は作業員が倉庫の地中梁(はり)の下にもぐり、建物基礎の下に埋められている地盤を安定するための均(なら)しコンクリートを破砕機で崩している場面が描かれています。
関係者は「こんな現場で掘削作業をすれば振動や圧力で土砂が崩れ、作業員が埋められてしまうことは明らかで、重機を使うべきだ」と力説します。
東電は本紙の取材に「現場が狭隘(きょうあい)で重機が使える環境ではなかった」(本店広報部)としています。関係者は「それは言い訳にならない。リスクアセスメント(危険予測)をすれば当然、土砂崩れ対策が避けられないという結論になるはずだ」と指摘します。
死なずにすんだ
「重機が使えなければ、作業員の安全を考えて深く掘り、地盤を仮杭で支えるなどの崩落対策が必要だ。作業計画や作業手順はどうなっていたのか東電、元請けは明らかにすべきだ」。東電は「作業計画通りの作業だった」としながらも、仮杭による崩落防護策はしませんでした。
事故前日の天候も指摘されています。福島地方気象台によれば同原発に近い富岡町のデータで前日の降雨量は9・5ミリ。「自然災害が発生する量ではないが、人の手が入っている工事現場で土砂崩れが起きるとすれば、施工管理ミスではないか」(同気象台関係者)と指摘します。
原発の収束・廃炉作業に取り組む労働者を支援する日本共産党の渡辺博之いわき市議は「ビル管理が中心の東双不動産管理に耐久補修という特殊工事を元請けさせた東電の判断ミス。現場に責任を持たない丸投げ体質が、作業員の命を奪った。東電、元請けの安全配慮義務違反は免れない」と話しています。