岸田自公政権、東京電力は、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束しながら、東京電力福島第1原発の汚染水(アルプス処理水)の海洋放出を始めました。この間のテレビ報道は、政府や東電の言い分を無批判に垂れ流し、世論誘導すらしています。
たとえば、岸田首相が福島第1原発を訪れて放出計画の準備状況を視察した20日の報道。「原発の沖合1キロほどのところで放出することになっている」との東電側の説明に、首相は「なるほど」というだけ。視察後の意見交換で、東京電力ホールディングス・小林喜光会長は首相に「総理の指摘を重く受け止める」とセレモニーのような“猿芝居”。地元漁業者の声も聞かずに帰京した結論ありきのパフォーマンスが放送されました。
東電が沖合の放水口周辺などで採取した海水のトリチウム濃度を発表した28日のNHK「ニュースウオッチ9」は、東京・新宿駅前で、街頭インタビューし、「IAEA(国際原子力機関)は、基準以下になっていると言っていますよね」と誘導質問。トリチウム以外の放射性物質も残っているのに、問題を矮小(わいしょう)化することに手を貸しています。本当に罪深い。
一方、冷静だったのは、27日のTBS系「サンデーモーニング」。「処理水放出 安全性巡る理解は?」と特集。「どこで理解を得られたのか、われわれ漁業者にはわからない」という地元漁業者や、長崎大学の鈴木達治郎教授の「放出される処理水は通常の原発から排出されているものとは異なる。信頼できる第三者機関を設置して放出プロセスを監視すべきだ」という声を紹介しました。
各コメンテーターも「毎日」論説委員の元村有希子さんが、中国の対応などについて、「外交力の欠如だと思う」と指摘。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、首相が「数十年先の長期にわたろうとも、全責任を持って対応する」とのべたことについて、「説明責任さえ果たさない側が全責任を持つと言っても空虚だ」。ジャーナリストの青木理さんは、「(溶け落ちた)核燃料デブリがあるからそれを冷やすために水がどんどん出てくる。880トンのデブリを取り出さないといけないが、12年たって1グラムも取れていない。本当に廃炉できるのか」とのべ、原発回帰にかじを切った政府の姿勢を批判しました。
政府に迎合するのがメディアの役割ではないはずです。(藤沢忠明)
(「しんぶん赤旗」2023年8月31日より転載)