原発推進等5法(GX電源法)が5月31日の参院本会議で自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立しました。東京電力福島第1原発事故の教訓に反し、原発推進を国の責務と定め、日本を危険な原発依存社会へと引き戻すものです。被害者の声を聴くために不可欠だった福島での地方公聴会も開かず、国民的議論がないまま成立を強行したことは断じて許されません。
事故は終わっていない
福島第1原発事故から12年余りが経過しましたが、事故も被害も続いています。多くの人が故郷に戻ることができません。第1原発の施設そのものも原子炉内の深刻な実態などがあらわとなり、事故収束は見通せません。増え続ける汚染水も大問題です。原発回帰への大転換は、被害を繰り返してはならないという被害者の思い、痛苦の教訓を踏みにじるものです。
安定供給と脱炭素を口実に原発を活用することを、「国の責務」として原子力基本法に明記しました。既設原発の活用にとどまらず、新たな原発建設を含め将来にわたり日本を原発に縛り付けます。原発業界の要求を丸のみし、産業基盤の維持・強化など原発業界支援が盛り込まれました。福島原発事故以来の「原発依存度の低減」という建前を投げ捨てる逆行です。
原発の運転期間を原則40年、延長しても60年と定めた規定を、原子力規制委員会(規制委)所管の原子炉等規制法から電気事業法に移すことは重大です。運転期間の延長は、原発利用政策の観点から経済産業大臣が認可することになります。しかも、規制委の審査などで止まっていた期間を運転期間から除くことができるとされ、実際には70年を超えて運転できる制度です。
運転期間上限は、経年劣化による「リスクを低減するため」と説明されてきました。それが原発を推進する経済産業省の所管となれば、制度の性格が百八十度変わってしまいます。
法案準備の過程で、規制委が経産省の意向を容認したことは国会審議でも厳しく追及されました。規制委は、規制行政が事業者の虜(とりこ)となっていたことが福島原発事故の根源にあるとの国会事故調査委員会の指摘を踏まえて設置されたはずです。規制が再び推進勢力の虜になれば、原発の危険は増すばかりです。
安定供給と脱炭素のためには、省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの本格的普及こそ必要です。原発への依存は、省エネ・再エネを進める上で妨げでしかありません。
実施許さないたたかいを
一方、岸田文雄政権が原発回帰の旗を振っても、思惑通りに進まないのが実情です。再稼働しているのは3電力会社の原発10基です。東京電力は1基も稼働できていません。運転期間延長は認可の基準すらできていません。新たな原発の建設は、1基1兆円規模とされ、事業化のめどはたっていません。それだけに推進側は執念をもって動きを強めてくるのは必至です。推進法の実施を許さないたたかいはこれからが正念場です。
福島原発事故を経験した日本でこそ、原発ゼロの決断が必要です。国民の命と暮らしを守るため、原発ゼロ、省エネ・再エネを進める政治への転換が急がれます。
(「しんぶん赤旗」2023年6月3日より転載)