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原発事故 賠償範囲を拡大・・原賠審新指針 目安「上限でない」明記

先が見えない廃炉作業が続く東京電力福島第1原発=2018年3月8日(チャーター機から、三浦誠撮影)

 東京電力福島第1原発事故の賠償基準の目安となる「中間指針」を策定する文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審、会長・内田貴東京大学名誉教授)は20日、指針を見直した第5次追補を決定しました。故郷が事故によって変わったことによる「生活基盤の変容による精神的損害」に対して1人250万円を支払うことなど賠償範囲を拡大しました。また、指針で示す損害額の目安については「賠償の上限ではない」と明記しました。

生活基盤変容や健康不安に

 指針は2011年8月に策定され、見直しは13年12月以来、9年ぶり。これまで避難生活による精神的損害として東電は1人月額10万円を目安に慰謝料を支払ってきました。

 しかし、最高裁が今年3月、いずれも指針を上回る損害賠償を認めた七つの集団訴訟の高裁判決について東電の上告を退け、判決が確定。これを受けて原賠審は、これらの判決や原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の事例も含め見直しを検討してきました。

 新しい指針は、「生活基盤喪失による精神的損害」について、居住制限区域、避難指示解除準備区域、緊急時避難準備区域の住民に新たに認めました。

 また、福島第1原発から半径20キロ圏内などで、着の身着のまま取る物も取りあえず過酷な避難を強いられたことによる精神的苦痛を賠償すべき損害として慰謝料30万円を加算します。

 計画的避難区域や特定避難勧奨地点に居住した住民については、「相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害」を認定し、妊婦・子どもやそれ以外の人にそれぞれ加算。通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きいと認められる場合として、要介護状態や身体・精神の障害、妊娠中などの項目についても増額します。

 福島市や郡山市、いわき市など指針の「自主的避難等対象区域」の子ども・妊婦以外のおとなへの賠償対象期間を「事故当初」から11年12月末に拡大し増額します。

 一方、「対象区域」外の賠償を認めた判決がありながら、賠償の対象地域は拡大されず、「対象区域」以外の地域については「個別具体的な事情に応じて賠償の対象と認められ得る」とされました。

 見直しに9年かかったことについて、内田会長は審査会後、「確定判決を待つのはやむを得なかった」と述べました。

(「しんぶん赤旗」2022年12月21日より転載)