ロシアのウクライナ侵略によるエネルギーの価格高騰などを口実に岸田自公政権が原子力を「最大限活用する」と打ち出しました。従来の「原発依存度を低減する」という方針を覆し、原発の復権・永久化をねらっています。日本維新の会や国民民主党も原発推進を声高に主張しており、即時原発ゼロを掲げる日本共産党との対決軸が鮮明です。
政府が7日、閣議決定した経済財政運営の基本方針である今年の「骨太の方針」は、「エネルギー安全保障」を重要課題と位置づけ、原子力について昨年の方針にあった「可能な限り依存度を低減しつつ」の表現をなくし、「最大限活用する」と東京電力福島第1原発事故後初めて原発の“復権”への露骨な姿勢を盛り込みました。さらに原子力規制について、新たに「厳正かつ効率的な審査」を進めると、原発審査の促進に言及しました。
原発の再稼働含め原子力の「最大限活用」は岸田政権の“看板”にもなっています。その姿勢は、5月の日米首脳会談にもあらわれています。共同声明で「原子力の重要性を認識」することで一致。出力が小さい原発・SMR(小型モジュール炉)の技術開発と輸出拡大などを盛り込んだほか、別の合意文書で「日米パートナーシップの下での協力を強化する」として、「原子炉の運転期間の長期化」など原発活用での協力をうたったのです。
国内では法律で原発の運転期間は原則40年。「例外的」に1回に限り最大20年の運転延長を認めており、それ以上の運転延長は法律を変える必要があります。経産省の審議会では、米国で「80年運転の認可」もあると事務局が紹介し、推進派の委員が60年を超える運転を検討するよう求めていました。
しかし、この考えは原発を将来にわたって動かすことになる上に、老朽原発酷使の危険を伴うものです。
「最大限活用」や「運転期間の長期化」などについて日本共産党の笠井亮議員は8日の衆院原子力問題調査特別委員会で「福島第1原発事故の教訓を踏まえず、事故がなかったかのような対応だ」と指摘しました。
原油などエネルギーの価格高騰でエネルギーの外国頼みの危うさが明らかになった下で、「真のエネルギー安全保障」のためには、省エネと一体に、国産100%の再生可能エネルギーへと大規模に置き換えることが急務です。そのためにも再エネの普及を妨げる原発は即時ゼロへ踏み出す政治決断が必要です。
原発「最大限活用」方針 財界の要求そのもの
首相の「最大限活用」の方針の下、原発再稼働の前提となる審査を行う原子力規制委員会で審査を早く進める「効率化」を求めることにまで及んでいることは重大です。
「審査効率化」
首相は民放番組に出演し、原発の再稼働をどう進めるかと問われて、審査の「合理化・効率化を図り」「審査体制を強化しながら」原発をできるだけ動かしたいと発言。国会でも、規制委の規制基準で義務づけられているテロ対策施設の設置期限の規制の除外や「迅速な審査」を求める自民党議員の質問に、審査の「効率化に努めていく姿勢は重要」だと答弁しています。
この問題では自民党の「原子力規制に関する特別委員会」が5月、首相に提言を提出。思惑通り再稼働が進んでいないとして「効率的な規制」を求めました。政府のエネルギー基本計画は2030年度の電源構成に占める原子力の割合を20~22%としましたが、現在は4%(20年度)で再稼働した原発は10基だからです(表)。
「安全最優先の再稼働」といいながら、結局は原発再稼働を最優先するということです。
経団連の提言
首相らの発言は財界の要求そのものです。
日本経団連が4月に公表した提言には、既設原発を「最大限活用していくことが必要条件」だと強調。政府の30年度目標達成のため約27基の再稼働・稼働や、原則40年運転を形骸化する「運転期間の60年への延長」、さらに原発のリプレース(建て替え)・新増設、「60年を超える運転期間の検討」を政府に求めています。原子力規制での「審査の効率化・迅速化」も要求しています。
首相が出席した政府の有識者懇談会(5月)に経団連と日本商工会議所も出席。議事録には経団連の十倉雅和会長は「2050年には原発40基が必要だ」と発言し、日本商工会議所の三村明夫会頭は「早期再稼働は急務」と述べたとあります。
維新・国民も
日本維新の会や国民民主も原発推進を声高に主張しています。
日本維新の会は6月に発表した政策提言で、エネルギー安全保障を口実に原発を「可能な限り速やかに再稼働」を明記し、小型原子炉などの実用化に向けた研究開発を公約。3月の提言では、テロ対策の施設ができていない原発を特別に内閣として再稼働させることを求めました。
国民民主党は参院選公約で、原発の再稼働とともに、現行の政府方針にもない「次世代炉のリプレース」を掲げ、国会で玉木雄一郎代表が「リプレースを行うべきではないか」と首相に迫っています。
日本共産党の政策
日本のエネルギー自給率は10%程度と経済協力開発機構(OECD)36カ国中35位と最低クラスです。原油価格の高騰は、エネルギーの外国頼みの危うさを浮き彫りにしています。自給率を高め、気候危機を打開するためにも、省エネと一体に100%国産の再エネを大いに普及することが重要です。即時原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度に原発と石炭火力の発電量をゼロとします。
(「しんぶん赤旗」2022年6月15日より転載)