東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11年にあたり、日本共産党の志位和夫委員長が24日に宮城県と福島県の市長・住民・漁協・学者・市民団体の代表らと行ったオンライン懇談の詳報は次の通りです。
宮城 地域経済立て直し必要
志位氏は「大震災から11年が経過いたしました。時間が長期に及ぶことによる新しい困難もあると思います。復興の現状と国への要望をお聞かせいただければと思います」と述べました。
宮城県石巻市の斎藤正美市長は、ハード面では復興が進む一方で生活や生業(なりわい)はコロナ禍のもとで困難な状態にあると述べ、「地域経済の立て直しが必要です」と強調。「人口減少も大きく、いかにして若者を呼び込むかが課題です」と切実に語りました。
環境変化で不漁
養殖業を含めた水産業が主要産業である石巻市。斎藤氏は、海洋環境の変化による不漁の問題をあげ、「海況状況は非常に悪い。普段漁獲のある魚種が取れなくなってきています」と指摘しました。また、ロシアによるウクライナ侵略の影響で「石巻市はたらこの生産量を誇っていますが、その原卵が入ってこなくなりました。水産加工業者も厳しい現状にあります」と語りました。
宮城県漁業協同組合の寺沢春彦組合長は、水産業再生のためには養殖を伸ばす取り組みや魚種の転換も必要だと指摘。志位氏が国として実施すべき漁業支援を尋ねると、寺沢氏は「魚種を転換するにも新たな設備投資が必要になるので、補助メニューの見直しや加工・流通も含めた全体的な支援が求められます」と語りました。
さらに寺沢氏は「水産物でも海外に依存している部分が大きい。食料自給率をあげていかないと、遠い国で何かあった場合に生産者にも消費者にも影響がでます」と指摘。「日本の海にはまだまだ力があります。国として1次産業にテコ入れをして生産性をあげる方向に進んでほしい」と要望しました。
志位氏は「沿岸漁業の問題は、国として再生のための一大プロジェクトが必要だと考えています」と強調。「海洋環境の変化は、科学的な知見を集めて打開策を講ずる必要があります。1次産業に対する支援は国の財政支出の抜本的引き上げを求めていきます」と述べました。
ロシアの侵略による影響については、「私たちはあの侵略を絶対に許すわけにはいかない。ですから経済制裁は必要です。ただ、そのために国民の暮らし・営業が苦しくなる問題については、国として対策を講じるよう求めていきます」と応じました。
心のケア継続を
志位氏が国が必要な被災者支援予算を減らしている中での石巻市の現状を質問すると、斎藤氏は「被災者の心の健康を守る『心のケア事業』を継続して推進する必要があります。中長期的な視点から財政支援の充実を国へ働きかけています」と説明。市としても復興住宅への健康調査など支援事業に継続的に取り組む決意を語りました。
志位氏は、被災者に寄り添って心のケアや健康支援活動に取り組む市の姿勢に敬意を表したうえで、「被災から長期に時間が経過した新しい段階での支援をしっかりと充実させるということを国に求めていきます」と応じました。
福島 「原発ゼロ」一日も早く
福島県内の関係者との懇談では、福島第1原発の汚染水問題や、原発事故に対する国の責任、住民の分断などが焦点となりました。
汚染水1日150トン
汚染水の海洋放出をめぐって、いわき市漁業協同組合勿来(なこそ)支所の芳賀文夫支所長は、菅義偉首相(当時)が放出を決定したのは、震災と原発事故で閉鎖していた勿来魚市場が10年ぶりに再開する間際だったと指摘。「新型コロナと汚染水を流す話とのダブルパンチでした。まわりから『市場を開いていいのか』と相当責められました」と苦労を語りました。
汚染水問題を調査・研究する福島大学の柴崎直明教授(地質学)は「事故から11年たっても、汚染水は1日平均150トン増えています。地下水が建屋に流入し、溶け落ちたデブリと接触するのを防ぐ抜本的な対策をとり、発生する汚染水を可能な限りゼロにすることが重要です」と強調。現行の凍土壁は応急的なもので不具合が生じているのに、国と東京電力は代替策を講じていないと批判し、「既存の土木技術を駆使して数十年もつ遮水壁の設置を」と求めました。
志位氏は「国と東電の頭には海洋放出しかないため、汚染水の増加を防ぐ対策がおろそかになっています。国の姿勢を抜本的にあらためさせるとともに、科学的英知を集めて汚染水対策の方途を明らかにしていきたい」と応じました。
全被害者救済を
原発事故への国の責任については「生業を返せ! 地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)の中島孝原告団長が、5~6月に最高裁判決が出るとし、「国の責任がはっきりすれば、救済法を制定し、原告にとどまらない全被害者の救済制度をつくるよう求めていきます。ぜひ国会でも力添えをいただきたい」と要請しました。
帰還困難区域に指定されている浪江町の石井ひろみ津島原発訴訟原告団副団長は「古里の津島は人のつながりがとても強い。住民は原発事故による物理的な分断に加え、補償額の違いによる精神的な分断も強いられています」と憤りを語り、「帰還困難区域の指定を解除するなら全域一緒に」と求めました。「原発事故は自民党政権の政策の結果です。国の責任をぜひ国会でも追及してほしい」とも訴えました。
志位氏は、住民の長年のたたかいに敬意を表し、最高裁判決をめぐる対応は「夏の参院選でも大きな争点になります。共産党は、救済法をつくり国に責任を果たさせる立場でがんばります」と表明。「今日の事態は原発事故の恐ろしさを示しています。その事実を見据え、政治が“原発ゼロ”を決断しないといけません。一日も早い“原発ゼロ”実現のために力を尽くします」と決意を述べました。
(「しんぶん赤旗」2022年3月26日より転載)