東京電力福島第1原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民640人が国と東電に対し、除染による原状回復と、ふるさとを奪われたことへの精神的慰謝料など計約265億円の支払いを求めた訴訟の判決が30日、福島地裁郡山支部(佐々木健二裁判長)でありました。佐々木裁判長は国と東電の責任を認め、総額計約10億円の支払いを命じました。一方、除染による原状回復請求は退けました。判決後、原告らは「ふるさとを取り戻す足場を築けた」と力を込めました。
同種の集団訴訟は全国で約30。国の責任を争った17件の一審判決で国の責任を認めたのは9件目になります。
判決は、2002年7月に国の機関が公表した、三陸沖から福島県沖を含む房総沖の海溝寄りの地震予測「長期評価」について「相当な信用性を有する知見」と認定。国に対し、長期評価をもとに津波の算出を東電に命じていれば、同年に福島第1原発の敷地高を超える津波が到来する危険性を予見できたと判断。06年には福島第1原発が津波に対する脆弱(ぜいじゃく)性を国も認識できたとし、安全性確保のための規制権限を行使しなかったのは「著しく合理性を欠き、違法である」と断罪しました。
国が津波対策を東電に命じていれば電源車の配備や水密扉設置などで「事故は回避できた」と認めました。
損害賠償では、避難を余儀なくされ、人と人の結びつきや豊かな自然から切り離され、日常生活で経験しない被ばくへの不安、長期間にわたる帰還困難区域の指定などからすれば、原告の慰謝料は東電から支払われた慰謝料額では不十分と指摘。一方、同地区全域の放射線量低下を求める訴えは「不適法」とし、放射線量低下の義務があることの確認を求める訴えとともに退けました。
(「しんぶん赤旗」2021年7月31日より転載)