政府が東京電力福島第1原発から出るトリチウム(3重水素)を含む汚染水の海洋放出方針を早期に決定しようとしていることに、福島県内で反対や慎重な姿勢を求める声が広がっています。(福島県・野崎勇雄)
9年半の努力は何だったのか――漁師怒り
海洋投棄に反対や慎重な扱いなどを求める意見書が、これまで県議会と県内59市町村のうち41市町村議会(約7割)で可決されました。ほか請願趣旨を採択したのが一つの議会です。
地元新聞は、放射能汚染水問題を連日のように1面トップで扱うようになりました。福島県労連や民主団体などでつくる、ふくしま復興共同センターや、市民組織なども「海を汚すな」「政府は勝手に決めるな」などと宣伝し、反響が強まっています。
10月24日には福島市のJR福島駅前通りで、県内の青年組織・DAPPE(ダッペ、平和と平等を守る民主主義アクション)が呼びかけた緊急街頭宣伝が行われました。
「来年春から本操業に戻ろうと準備が始まり、やっと本格的に漁ができるかと気持ちを奮い立たせていた矢先の海洋放出の動きだ」。こう怒りをぶちまけた漁師歴53年の小野春雄さん。「試験操業など、われわれの9年半の努力は何だったのか。海が汚されると、われわれは生活できなくなる。漁師の道に引き込んだ3人の息子たちの人生を何と考えているのか」と訴えます。
行動参加者だけでなく、通りがかりの市民からも拍手が寄せられるなど反響を呼びました。
街頭宣伝では、「原発のない福島を! 県民大集会」の実行委員長、ふくしま復興共同センター代表委員、県市民連合幹事も海洋放出反対を強調。日本共産党の高橋千鶴子衆院議員、立憲民主党の金子恵美衆院議員、社民党の紺野長人県議が激励のあいさつをしました。高橋議員は「海洋放出反対、地上タンクでの保管を継続させるため、私たちも頑張る」と呼びかけました。
政府は、「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」(議長=加藤勝信官房長官)を開催して決定しようとしています。正式決定すれば、東電が具体的な計画を策定し、原子力規制委員会の審査を経て、準備工事などが実施されます。
同原発には処理未完了を含め123万トン以上の汚染水がたまり、2022年秋ごろ満杯になる見込みで、政府はタンク保管継続に背を向け、海洋放出の決定を急いできました。10月中旬、政府は汚染水を薄めて海洋放出する方針を同月中にも決定すると明らかにし、その後、月内の決定は延期。しかし、早期決定の姿勢は崩していません。
日本共産党福島県委員会と復興共同センターは同月20日、汚染水の海洋放出を絶対に行わず、当面陸上保管を継続できる対応を取るよう求めた要望を経済産業省に申し入れました。同党の笠井亮、高橋千鶴子、藤野保史各衆院議員、紙智子、岩渕友両参院議員が同席しました。
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の原告団長 中島孝さん(64)
評判の漁場が…
私も相馬市のスーパーで魚を長く扱っており、前浜の新鮮な魚は味がいいと評判でした。しかし震災後は試験操業のみで、水揚げも回復していません。全国に出荷する仲買業者さんも、福島県産の魚は震災前の相場では売れないと悪戦苦闘しています。
来年4月から本操業に戻る中で、汚染水の海洋投棄をすれば大変なことになります。
政府は安全だというが、消費者の中で福島の魚は食べないほうがいいという声が強まるのは明らかです。地元の漁業者や仲買業者や小売りは、これまでの努力も生活の見通しもすべて命運尽き、絶望におちいります。
私たちの訴訟で仙台高裁は9月に、国が役割を果たさなかったために原発事故が起きたと国の責任を認定しました。東京電力など大企業の利益を優先する国の姿勢が県民の健康や命、生活を脅かすのは、汚染水の問題も同様です。国の姿勢を根本から改めさせなければいけません。
(「しんぶん赤旗」2020年11月2日より転載)