状況はコントロールされてる 2013年9月 300トンタンクの漏えい事故後
そういう認識に変わりはない 2015年2月 排水路から外洋への流出発覚後
東京電力福島第1原発の汚染水問題。安倍晋三前政権は、危機的な状況を軽視し、海への汚染水流出もきちんと説明してきませんでした。こうした政府と東電の無責任な態度が問題を深刻化させてきました。安倍政権の“負の遺産”が汚染水問題に暗い影を落としています。
「原発」取材班
「(汚染水について)状況はコントロールされている」「影響は港湾内の0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」
安倍首相(当時)が2013年9月7日、五輪招致のための演説で唐突に世界に発信した“安全宣言”は、あまりにも実態からかけ離れ、多くの人々の不信と不安を広げました。
高濃度汚染水300トンがタンクから漏れた事故から、わずか半月あまりのことでした。漏れた汚染水が外洋に流出した可能性が高いとされ、演説の前日には、漁業者が海洋流出を止める対策をとるよう要請していたところでした。
当時、政府の推定で1日当たり300トン規模の汚染地下水が海に流出し続けていることも分かっていました。
福島県いわき市在住の伊東達也・原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員は、このときの演説を「『その通り』と言う福島県民の声を聴いたことがない。みんな『何を言っているんだ』と冷めた反応だった」と振り返ります。
汚染水が流出
しかもこの宣言のもとで「東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していく」(13年9月3日の原子力災害対策本部決定)はずの政府の対応は、後手に回り続けました。
15年2月、国の放出基準を大きく上回る汚染水が、降雨時などに排水路を通じて外洋に流れ出ていることが明るみに。東電は早くから把握していたにもかかわらず、データを公表せず有効な対策もとってきませんでした。このとき、つじつま合わせのために「港湾外への汚染水の影響は完全にブロックされている。状況はコントロールされている。そういう認識に変わりはない」と強弁し、ウソを上塗りしたのが当時の菅義偉官房長官です。
汚染地下水の海への流出は「海側遮水壁」が15年10月に完成したことで抑制されましたが、排水路を通じた海への散発的な流出は続いています。
国民合意なく
安倍前首相の五輪招致演説から7年。政府は汚染水の増加を抑制する対策をとってきたものの、現在も汚染水は1日当たり180トン規模で増え続けています。
高濃度汚染水を処理した後にタンクにためている高濃度のトリチウム(3重水素)を含む汚染水(処理水)は120万トンを超えました。政府は、これを薄めて海に放出する案など処分方法の検討を進めています。東電が現行のタンク計画では22年夏ごろに満杯になるとしているからです。
政府が前のめりに海や大気への放出の検討を進めることに、福島県内はもとより県外の人々にも懸念の声が広がっています。
伊東さんは指摘します。「政府の議論は、放出の結論が先にありきではないか。タンクの増設や大型化などで保管を継続するよう求めた国民からの多くの意見に対しては、真剣な検討を回避した。日本のどこであれ海洋放棄すれば風評被害による実害をもたらすという指摘が相次いだのに、補償や賠償の枠組みも示さない。時間がたてば現地はあきらめると考えたかもしれないが、世論は納得していない。国民の合意をつくる取り組みをしないことが、政府と東電の最大の問題だ」
(「しんぶん赤旗」2020年9月18日より転載)