日立製作所が英国の原発建設計画からの撤退を正式に決めました。同社の中西宏明会長は経団連会長です。安倍晋三前政権が推進してきた原発輸出戦略による海外の建設事業はこれで全て頓挫しました。原発が危険性からも採算の上でも成り立たないことは明白です。菅義偉政権は行き詰まった推進路線を転換し、原発輸出も国内での再稼働も断念すべきです。
危険で採算の見通しなし
日立が2012年に英国の原発事業会社を買収し、ウェールズ地方のアングルシー島で2基の原発を建設する計画でした。地元では住民が環境破壊だとして立ち上がり、粘り強い反対運動が続いていました。
事業推進の上では費用が想定の1・5倍となる3兆円に膨らみ、採算の見通しが立たなくなりました。英国政府から融資を受ける枠組みをつくろうとしましたが、それも実現せず、日立は19年1月に「経済合理性の観点」を理由に計画の凍結に追い込まれ、ついに撤退に至りました。
安倍政権は原発輸出を成長戦略の目玉事業に位置づけ、「トップセールス」と称して首相自ら各国に売り込みました。しかし東京電力の福島第1原発事故の後、原発建設は各国で反対に直面しました。リトアニアでは国民投票で計画が否決され、同国での日立の原発建設は16年に凍結されました。
ベトナムでは安全への懸念と財政難から反対の声が高まり、政府が計画を撤回しました。その後も東芝の米原発子会社が破綻し、三菱重工がトルコでの原発建設を断念―とことごとく失敗しました。
英国への輸出にも官民一体で力を入れましたが、「安全対策」の経費を増やさざるをえなくなり、事業費が想定をはるかに超える結果になりました。再生可能エネルギーの普及が進み、発電コストが下落する一方、原発のコストは年々上昇しています。原発が経済的にも無謀な事業であることははっきりしていました。
国際エネルギー企業のBPによると、世界の再生可能エネルギーによる発電量と発電量シェアは近年増え続け、19年に原子力発電量を上回りました。原発輸出を日本の経済成長の柱に据えたこと自体、世界の流れに逆行しています。
にもかかわらず安倍政権は原発輸出に固執してきました。政府の経済協力インフラ戦略会議は20年度の「インフラシステム輸出戦略」でも原発を含めた「インフラの海外展開」を掲げました。国内の原発については、18年に決定した「エネルギー基本計画」で「重要なベースロード」と明記し、再稼働を進めると宣言しました。原発推進路線の破綻に目をつぶった無責任な姿勢です。
再稼働反対の声を聞け
世論調査では再稼働反対、原発ノーが多数派です。「読売」(1~2月実施)では再稼働反対が56%でした。日本世論調査会(2~3月実施)の結果も「今すぐ」あるいは「段階的」に「原発をゼロにすべきだ」が合わせて70%に上りました。菅政権はこの声を真剣に受け止めなければなりません。
再稼働中止は当然です。新増設など論外です。野党4党は、原発ゼロ、再エネへの抜本的転換をめざす「原発ゼロ基本法案」を国会に共同提出しています。直ちに審議し実現を急ぐべきです。
(「しんぶん赤旗」2020年9月18日より転載)