原発の追加安全対策費が、膨らみ続けています。本紙が行った全国11社の原発事業者へのアンケートで、追加総額は約5兆4000億円になることが分かりました。既存の原発に対し新たな規制要求に対応を求める「バックフィット制度」によって、今後も追加対策が求められる可能性があります。政府が宣伝する「原発は安い」の根拠はますます失われています。
(松沼環)
アンケートは今月に行いました(表)。2011年3月以降の各原発の追加安全対策費の合計は約5兆4000億円です。
最高額は、東京電力の柏崎刈羽原発の1兆1690億円。新規制基準対応のための液状化対策や中越沖地震後の耐震対策などが含まれています。
新規制基準への適合性審査を終えた美浜、大飯、高浜の3原発計7基を有する関西電力は、計1兆255億円。テロ対策費の増大に加え、最近も有毒ガス対策の費用を約1億円積み増すなど追加対策費が増え続けています。九州電力は、川内、玄海の2原発計4基で計9千数百億円と説明しています。
審査が続いている北海道電力泊原発の追加対策費は2000億円台半ばで、テロ対策の費用や設置する予定の防潮壁の費用は含んでいません。
再稼働に向けて審査中にある原発や、設置が義務づけられているテロ対策の設備「特定重大事故等対処施設」などの費用が含まれていない原発もあり、さらに総額は増大すると見込まれます。
原発は経済性なし 安全対策費天井知らず
“絶えず最新技術適用必要”
2015年に経済産業省の作業部会が算定した原発のコストは、1キロワット時当たり「10・1円以上」で、この算定で、1基当たりの追加安全対策費は601億円と想定していました。
一方、アンケートで得られた総額を、現在までに新規制基準への適合性審査を申請した原発数27基で割ると、追加対策費は15年算定の3倍以上、1基当たり約2000億円に上ります。
二律背反
大島堅一・龍谷大学教授(環境経済学)は、「原発の安全性と経済性はトレードオフ(二律背反)の関係です。これまでは安全対策を軽視して経済性を重視してきた。福島原発事故後、それは成り立たないので安全性を重視すれば、経済性が大きく損なわれてしまう。原発にすでに経済性はなくなっているのです」と話します。
バックフィット制度は、東京電力福島第1原発事故後に導入されました。新規制基準施行後も、基準が改定され、新たに対策が求められた例が、有毒ガス対策、電気盤の火災対策など8件あります。このほか、大山(鳥取県)の火山灰の厚さの再評価に伴う対策などへの対応もあります。(表)
さらに今後、未知の震源による地震の揺れに対する新たな考え方も導入予定で、新たな安全対策費用が必要になる見通しです。
大島氏は、「追加対策には、お金とともに時間もかかる。発電期間が少なくなれば、それだけ発電単価も高くなります。既存原発を使い続けるという電力会社は二重の意味で経営判断を間違えたのでないか」と指摘します。
未完技術
バックフィットによる安全対策について疑問を呈するのが、舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)。「バックフィットで取られた対策が有効かは相当に疑問。初めから設計して安全装置を付けるのと、後から付け加えるのでは、一般論として同じ安全機能が発揮されるかは難しいのではないか」
舘野氏は、「普通の技術は失敗に基づいて技術が進んでいきますが、原発の場合、失敗に基づいて技術を修正するというのがされてこなかった。今後も困難でしょう」とも話します。
日本学術会議の17年の原発のあり方についての「提言」でも、原発の稼働にはバックフィット方式により「絶えず最新の安全対策を適用することが必要」であり、それらの額が「事前に予測可能なものとはならない」と断定。原発が「工学的に未完の技術であることを示している」と指摘しています。
規制委が求めたバックフィット案件
【追加規制要求】
有毒ガス防護対策
電気盤などの火災防止
燃料被覆材の地震時の閉じ込め機能
動的機器の耐震性
火山灰対策
格納容器の破損防止対策
放射性物質を含んだ液体の外部漏えい防止
火災報知器の設置数の要求明確化
【新知見への対応】
大山火山灰の厚さ再評価
警報が発表されない津波への対応
(「しんぶん赤旗」2019年12月29日より転載)