東京電力福島第1原発事故の「収束・廃炉」作業は今年、汚染水問題で大きく揺れ続けました。汚染水漏れ対策、始まった4号機での燃料棒取り出しなど本格化する廃炉作業で東電が11月に打ち出した作業員確保のための「(危険)手当増額」。しかし現場では東電、元請け(多重下請け)の間で深刻な不協和音が噴出しています。(山本眞直)
東電福島第1原発の有力元請けの一つ、株式会社「宇徳」(本社・横浜市)の福島事業所が作成、関係者に配布した文書が波紋を広げています。「お知らせ」と書かれたA4判1枚の印刷物にはこうあります。
「当社は、右報道の内容が事実と異なることから、東京電力殿に対し、東京電力殿があたかも一日一万円の手当を支払っているとも思わせる発表に説明を求めると共に従事者に分かり易く、且つ明瞭な回答が出来る為の説明資料の提出を求めています」
冒頭の「右報道」とは、同文書とあわせて配布された地元紙、福島民友(11月9日付)のコピー。「東電緊急安全対策 原発作業員手当を倍増 1万円↓2万円 廃炉 人員確保へ」の見出しが1面トップを飾った記事です。
福島第1原発構内での作業員に対し12月発注分から、通常の日当に割り増しして支払われている手当(危険手当)を現行の1日1万円から2万円に引き上げる、という内容です。
現場は混乱
現場の作業員からは「遅すぎるが、当然だ」と歓迎の声があがっています。
しかし―。「現場は混乱している」と指摘するのは原発事故前から同原発で働いてきた熟練作業員。下請け業者からの問い合わせに、ある原発メーカー系の大手元請けは「増やすのか、これまで通りか検討中」と、言葉を濁しているといいます。
東電が手当増額に踏み切った背景には深刻な作業員不足があります。原発事故後、収束・廃炉作業のための作業員が連日、3000人規模で動員されてきました。現在は半減に近い日が常態化しているといいます。
「ピンハネ」
作業員の「原発離れ」は労働環境の悪化です。東電の「コスト削減」で下請け単価は削られ、人件費が引き下げられたのです。「日当はピンハネされ、高い放射線量にさらされながら危険手当もない」という多重下請けによる使い捨てに拍車がかかりました。
東電は元請けに対し、「なぜ人が集まらないのか」と対策を迫っているといいます。
東電はこれまで日当や危険手当の「ピンハネ」について「作業員と直接の雇用関係にない」と、元請け業者との契約内容を明らかにしてきませんでした。
宇徳の文書は東電の増額表明を「契約内容は明かさないのが『業界の慣例』。なぜ余計なことをしたのか」といわんばかりの“反乱劇”ともとれます。
東電は11月29日、宇徳ら「取引先各位」に対し、こう回答してきました。「本施策は、作業員の皆さまの賃金改善を通じてモチベーションの向上を図ることを目的とするものであり、その内容は、弊社の設計段階で労務費割増分を増額することにより、作業員の皆さまの賃金改善を図っていこうとするものです」
東電は支払い説得を
原発での無権利労働を作業員とともに告発してきた日本共産党の渡辺博之いわき市議はいいます。「労働基準監督署や裁判での告発、無権利労働の改善を求める作業員のたたかい、これを支持する世論によって東電は追い詰められている。収束・廃炉作業には国の税金が投入されている。東電は、元請けに対し、『割増分』を下請けと作業員に支払えと説得すべきだ」