原子力規制委員会は8月15日、東京電力福島第1原発の放射能汚染水対策として1~4号機周囲の地盤を凍らせる「凍土壁」(陸側遮水壁、全長約1・5キロ)で、唯一計画的に未凍結としている2、3号機の山側1カ所(約7メートル)の運用を認可しました。東電は22日にも、同箇所の凍結を始めるといいます。これで、凍土壁の一部運用を始めた昨年3月以来、全面運用されることになります。
同原発では、高濃度の放射能汚染水が滞留する建屋の地下に、地下水が流入することによって放射能汚染水が新たに発生し続けています。
東電は、汚染水の発生量を抑制するため、凍土壁のほか、敷地内の地下水くみ上げ、雨の浸透を抑える舗装などの対策をとってきました。複合的な対策により、建屋への地下水流入量は当初1日当たり約400トン規模でしたが、最近では同百数十トン程度まで減少しました。
凍土壁の最大の課題は、建屋地下に滞留する高濃度の放射能汚染水が外部に漏れないように、建屋滞留水の水位より地下水位を高く維持することです。
建屋への流入量を減らすため、地下水くみ上げを続けながら、一定の地下水位を維持するという困難な運用となります。
規制委は、凍土壁が全面凍結し建屋周囲への地下水供給が全くなくなった場合でも、建屋周囲の井戸からの地下水くみ上げを停止すれば、地下水位を維持できると見込んでいます。
同未凍結箇所は7月31日から、地下水の流速を遅くするための補助工事を始めていました。
解説・・水位管理が最大課題
約345億円の国費を投入し設備が作られた凍土壁が、ようやく全面運用されることになりました。遮水効果が表れるのか不透明な上に、懸念される地下水位管理について、東京電力に不手際があったばかりです。最大の課題である水位管理に、緊迫感を持って取り組むことが求められます。
原子力規制委員会はこれまで、凍土壁の全面凍結によって建屋周囲の地下水位が急激に低下することを懸念し、2016年3月以来、慎重な段階的運用を認めてきました。
しかし凍土壁は、当初期待されたような遮水効果はみられず、規制委の検討会で、「壁じゃなくて、すだれ」(昨年6月)と揶揄(やゆ)されたり、懸念される地下水供給量の激減についても「(凍土壁は)きっと水を通してくれるに違いない」(同12月)といった皮肉の声が上がっていました。
その一方で、地下水の水位管理をめぐっては今月2日、4号機建屋近くの井戸の水位が一時、建屋滞留水の水位より低くなり、汚染水が外部に漏れる恐れのある異常事態が生じました。運転上の制限を逸脱したにもかかわらず、東電は水位計の故障と誤って判断した上に、地元自治体への通報や公表も翌日まで遅れました。
通報の遅れをめぐって、地元福島県の内堀雅雄知事から「緊張感、危機意識が足りていなかったのではないか」と批判の声が上がりました。
規制委は、今回の水位低下は凍土壁と関連性がないとしながらも、認可にあたって、何か異常事態が生じた場合の連絡、通報体制の担保を求めました。
凍土壁の全面運用に当たり東電は、一つ間違えば高濃度汚染水が外部に漏れる危険性があることを認識し、万全の態勢で臨む必要があります。
(唐沢俊治)
(「しんぶん赤旗」2017年8月17日より転載)