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年間被ばく限度半年で超えた・・労働者告発 福島第1原発廃炉作業の闇/「高線量の仕事、短期の使い捨てだったのか」

 国と東京電力が過酷事故をおこした福島第1原発(1F)でいまも続く廃炉作業の実態は、どんなものか。「故郷を少しでも復興させたい」との思いを胸に、1号機の原子炉建屋内で作業にあたった複数の労働者が、放射線管理手帳や給与明細を見せながら「使い捨て労働だ。被ばくの不安がある」「命を削っている割に、安い」と本紙に告発しました。法令違反の疑いもある廃炉作業の“闇”を検証しました。

(阿部活士)

Aさんの放射線管理手帳に記載された月々の線量。6カ月の合計は54・83ミリシーベルトを超えていた

 AさんもBさんも孫請け会社に雇用されながら、″ある1次下請け会社の作業員″として仕事しました。元請けは清水建設。給与は、雇用された会社から出ましたが、実際の現場指揮は清水建設でした。

 作業者の限度被ばく線量は、国の基準として、「5年間で100ミリシーベルト」「1年間で50ミリシーベルト」と決まっています。線量が被ばく限度いっぱいになった作業を告発するのは、Aさんです。

 Aさんは、昨年2月から7月半ばまでの半年間、原子炉隣の敷地に散乱するガ

レキを撤去する仕事と、その敷地に鉄板を敷く作業をしました。

 本紙が入手したAさんの作業計画表によれば、敷地の平均線量値は、毎時9・85ミリシーベルトです。最高値が毎時35ミリシーベルトもあります。

 防護服の上にタングステンベストと短パンを着用しましたが、「歩くだけで0・1上がり、3回警告音が鳴ったら作業を中断する」という高線量のエリアです。

 「原子炉隣には近づかないで作業しろ」といわれたといいます。

 ガレキ撤去は、″グラウンドレーキ″のようなものでガレキをかき集めて、炭をはさむトングでフレコンバッグという巨大ゴミ袋に詰める作業です。手作業は″禁止″されていましたが、トングではさめないガレキの片づけは、革手をはめた手作業を清水(建設)も認めました。

 Aさんの放射線管理手帳には、月々の被ばく線量が記載されています。

 2月 11・96

 3月 11・82

 4月 6・79

 5月 8・2

 6月 11・00

 7月 5・06

 6カ月の合計は54・83ミリシーベルト。1年間の上限を超えていました。

「高線量の仕事、短期の使い捨てだったのか」

命を削っている作業

本紙が入手した作業計画表にある作業現場

 被ばく線量の国の基準は、「5年間で100ミリシーベルト」「1年間で50ミリシーベルト」です。しかし、Aさんの6カ月の合計は54・83ミリシーベルトでした。

 なぜ働かせ続けられるのか。

 線量は、年度替わりの3月で一度リセットされ、4月から新たにカウントする″仕掛け″でした。

 Aさんは、あるとき休憩所で、別の会社の作業員同士で、「清水も、あそこでよく働く人をみつけたよね」との会話を聞きました。「おれは、線量の高いところでの短期の使い捨て要員だったのかと怒りがわき起こった」といいます。

 「高い線量を受け、命削っている作業だ。それに見合うお金をもらっていない。重層下請け構造でピンハネされている気がする」

 AさんもBさんの共通する思いです。

 Bさんは、昨年7月から今年2月まで、原子炉建屋などで鉛板の設置作業などに携わりました。

 Bさんは、雇われた会社からの給与明細を見せてくれました。「基本給」が各月でバラバラ、「その他」が一番多い金額でした。雇用保険料、社会保険料も天引きされていません。

 1日あたりにすると、1万3000円から最高で2万円でした。

 AさんもBさんも結局、線量が限度いっぱいになったことと低い日当を考えて、廃炉作業から離れました。

 Aさんは、頭痛がひどく疲れやすいと話します。健康診断も経済的な負担を考えるとままならないといいます。

健康管理も自己責任

本紙が入手した作業計画表にある作業イメージ図

 Aさんらの告発から浮かびあがる。“闇”のひとつが、被ばくした労働者の実態とその健康管理です。

 「過酷事故から7年目。依然として実質的に50ミリシーベルトを超えた労働者がいることに驚いている。事実上″使い捨て″にしている。しかも、健康管理は自己責任に追い込まれているのは許しがたい」と話すのは、全日本民医連の医師で、九州社会医学研究所所長の田村昭彦さんです。

 田村さんは、政府と東電が「緊急作業」(2011年3月14日から同年12月16日まで)に従事し、50ミリシーベルト以上被ばくした作業者に限った健康管理を批判します。

 いったい、それ以降、高線量の被ばくした作業員は何人いたのか。

 それがわかる唯一の公開資料は、東電が毎月厚労省に報告する「作業者の被ばく線量の評価状況」です。これは、「東電が直接把握したものでなく、各協力会社からの報告を集約したもの」(東電広報)で、Aさんのように労働者の実質的な線量を評価していません。

 事故後5年間の「被ばく状況」をNPO法人・東京労働安全衛生センターがまとめました。協力企業の作業員2133人が50ミリシーベルト以上被ばくしていました。

 さきの医師の田村さんは、「国はすべての原発労働者の健康管理に責任を持つべきであり、少なくとも5ミリシーベルト以上を超える被ばくした労働者にたいする健康管理体制の確立は急務です。被ばく線量とその時々の健診結果を一元的に管理する『放射線健康管理手帳』を交付して生涯にわたる健康管理に努めるべきです」と提言します。

重層下請けやめよ

 「Aさんらの告発は、東電がさかんに宣伝するロボット作業の前段作業、環境整備において、高線量被ばくする″使い捨て労働″があることを示している」と話すのは、東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長です。

 飯田さんは、「東電は高線量被ばく労働を隠しながら、技術的なめどがたっていない燃料デブリの早期取り出しという廃炉工程に固執している」と批判。作業者のひばくリスクを最小限に抑えた作業を前提とする長期にわたる廃炉工程に転換すべきだと語ります。

 「貧困ビジネスといえるピンハネ、搾取の実態が、重層下請け構造のなかで隠されている」と指摘するのは、地元で相談活動を続ける福島県労連の斎藤富春議長です。「『国策』としてすすめた原発で初めて起こした過酷事故で被ばくを伴う特殊な作業です。働き方が超ブラックで東電や元請けの使用者責任をあいまいにし、無責任にしている重層下請けの雇用形態の転換を」と訴えます。「本来的には、奪われた故郷を取り戻す誇りある仕事です。少なくとも元請けの社員にするなど、雇用・処遇の面でも安心して作業できる職場にする必要があります」

(「しんぶん赤旗」2017年7月17日より転載)