7月15日に都内で会見した原子力規制委員会の前委員長代理の島崎邦彦東京大学名誉教授は、規制委が13日に発表した関西電力大飯原発(福井県)の地震の揺れに関する試算に問題があり、「規制委の議論と結論には納得できない」と繰り返しました(16日既報)。試算に対する規制委の結論ありきの姿勢が問題になりそうです。(松沼環)
島崎氏は、基準地震動(原発で想定する地震の揺れ)の策定で地震の大きさの予測に「入倉・三宅式」を用いると、垂直や垂直に近い断層では過小評価になる恐れがあると指摘。規制委は、この指摘を受けて垂直な断層に入倉・三宅式を用いて基準地震動を評価している大飯原発で、異なる予測式「武村式」を使って地震の揺れを試算しました。
その結果、規制委は、武村式を用いた場合の地震の揺れは最大で644ガル(ガルは加速度の単位)で、規制委が審査で了承した大飯原発の基準地震動(856ガル)のレベルに収まっており、見直しは必要ないと結論づけました。
島崎氏は会見で、規制委が行った入倉・三宅式を用いた結果の356ガルと、武村式の結果を比較。武村式を用いると約1・8倍となることを指摘しました。
一方、関西電力が基準地震動策定のために入倉・三宅式を用いて同様のケースで求めた値は596ガル。同じ入倉・三宅式を用いた規制委の結果は、これを大きく下回ります。
規制委は、関電が用いた詳細な解析上の設定を十分把握できずに、関電の設定と異なっているためと説明します。
島崎氏は、武村式を用いた解析は、入倉・三宅式での結果が関電と一致する設定でするべきだと指摘しています。しかし、規制委の試算はそれができていません。そこで、島崎氏は関電の結果を1・8倍して、武村式の効果を簡易に推定。その結果は約1080ガルとなり、基準地震動856ガルを上回ります。
島崎氏は、これに加え基準地震動策定時に「不確かさ」として考慮されている「短周期1・5倍ケース」などを計算する必要があるとしています。しかし、規制委は武村式にこれらの不確かさを考慮した試算も必要ないとして、実施していません。
島崎氏は、武村式で「不確かさ」を考慮した場合を関電の計算値856ガルから推定。その結果、約1550ガルとなりました。
島崎氏は「高い精度の推定ではないが、現在の基準地震動が過小評価されているのは間違いない」としています。
規制委の定例会合の試算の説明では、武村式を用いた規制委の試算と関電が「不確かさ」を考慮して求めた基準地震動の値が示されました。規制委は、このままでは比較の対象となりえない、これらの値を比べたのです。
島崎氏は19日、規制委の田中俊一委員長らと面談する予定です。
(「しんぶん赤旗」2016年7月17日より転載)