「『温暖化の抑制の電車』に、すべての社会の人が早く乗らなければいけない」―。深刻化する地球温暖化に対処するため、温室効果ガスの排出削減について検討してきた国連の専門家会議「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」でのパチャウリ議長のことばです。公表された三つの作業部会の報告で、温暖化の深刻さがあらためて浮き彫りになりました。作業部会の報告をもとにIPCCは10月に7年ぶりの評価報告書(第5次)を公表します。温室効果ガスの削減のため、日本を含むあらゆる国が踏み込んで責任を果たすことが不可欠です。
目に見える温暖化の危機
繰り返される異常気象や北極・南極でとけだす氷など、地球の温暖化はいまや人びとの実感になっています。温暖化否定論はもはや通用しません。国連の専門家会議の報告は、石炭や石油など化石燃料の利用による二酸化炭素(CO2)ガスの発生など人間活動に起因する温室効果ガスの排出増が地球温暖化の原因となり、大きな影響をもたらしていることを明らかにしました。
IPCCの三つの作業部会のうち第1作業部会は昨年9月、18世紀の産業革命以降地球の気温は上がり続けており、今世紀末には最大4・8度上昇すると予測しました。これまで国際社会が目標にしてきた、産業革命以降の気温上昇を「2度未満」に抑える目標を大きく上回るものです。
3月末横浜で開かれた第2作業部会は、こうした急速な温暖化による気候変動が、海面の上昇や生態系の破壊、水や食糧の不足、戦争まで起こしかねないことへの「懸念」を表明しました。日本でも農業や環境、人間の健康や生態系などさまざまな影響がおきることを専門家が指摘しています。
こうした気候変動をどう緩和するのか検討し、今回公表された第3作業部会の報告は、「各主体がおのおのの関心事を個々に進めていては、効果的な緩和は達成されない」と国際協力の必要性を改めて強調しています。今世紀末の気温上昇を「2度未満」に抑えるためには、温室効果ガスの排出を2050年には2010年に比べ40~70%低い水準に、2100年にはほぼゼロにする必要があるとしています。目標は大きなものですが、国際社会が協力して取り組めば、その実現のためのコストは負担できないものではないというのが報告書の分析です。
要になるのは省エネルギーと温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの利用拡大ですが、作業部会の報告は原発については「各種の障壁とリスクが存在する」と指摘します。温暖化を口実にした原発推進は許されません。
日本は責任を果たせ
地球温暖化は一刻の猶予も許されない全人類的な課題です。IPCCの報告書を踏まえ、国際社会の実行が問われることになります。ことし9月には国連気候変動サミットが開かれ、年末には国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)が開かれて、2020年以降の温室効果ガス削減に向けての枠組みが検討されます。
国際的な協力が求められるなか、昨年のCOP19でも日本政府の消極姿勢が批判されました。日本政府が野心的な政策に積極的に乗り出すことが求められます。