きょうの潮流

 ふるまわれた新鮮な魚やシラスに舌鼓を打つ家族連れ。伝統の「浜焼き」を体験する子どもたちの姿もありました▼福島・相馬市の松川浦で開催された海の幸まつり。地元でとれた海産物をもっと知ろうと催されたイベントです。原発事故から長く苦しんできた風評とのたたかい。しかし国の基準よりも厳しく検査するなど、関係者の努力によって少しずつ解消されてきました▼ところが―。ここにきてまた風評被害への懸念が高まっています。原発事故によって今も増えつづけている汚染水。それを政府と東京電力は、この春か夏にも海に放出しようとしているからです▼「やっと収まってきたのにまた出直せというのか」「結論ありきのやり方だ」。福島や宮城の漁港を回ると、怒りに満ちた漁業者の声が聞かれました。難しい問題だからと口を濁したり、どうせ反対しても流すのだろうとあきらめ顔の漁師も▼関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないと約束しながら、時期を一方的に示して突き進む国と東電。そんな乱暴な進め方が理解を得られるはずもありません。「福島民報」の県民調査では9割超が「風評被害が起きる」と答え、全国の世論調査でも同様の結果が表れています▼いまだ終わりの見えない原発事故の反省も教訓も忘れた岸田政権にも不安は広がります。何十年も続くという海洋放出。年配の漁師は若い漁業者たちを心配していました。「彼らがやりがいや誇りをもって魚をとれるよう、安心安全な海を受け渡したい」

(「しんぶん赤旗」2023年3月12日より転載)