原子力規制委員会は5月24日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が新規制基準に適合しているとする審査書を確定し、設置変更を許可しました。大飯原発をめぐっては、規制委の前委員長代理の島崎邦彦東京大学名誉教授が裁判や学会などで、想定される地震の揺れ(基準地震動)が過小評価されていると指摘していますが、規制委は見直しを拒否しています。関電は早ければ年内にも再稼働をねらっています。
審査書が確定したのは6原発、12基となります。
関電は大飯原発の基準地震動を856ガル(ガルは揺れの強さを表す、加速度の単位)とし、規制委も了承しています。しかし、島崎氏が昨年4月の熊本地震を検証したなかで、規制委が認めた算出方法では基準地震動が過小評価になると指摘。規制委は現在の方法でも過小評価の問題はないと反論しています。
審査書案は2月にまとめられ、30日間の意見募集で349件の意見がありました。
大飯原発で基準地震動の策定に用いている算出式を他の算出式にするべきだという島崎氏の提案を拒否したことを批判する意見をはじめ、若狭湾に5メートルの津波が襲来したことを示唆する堆積物を発見したとする福井大学の調査を考慮すべきだ、水蒸気爆発の可能性が否定できないなどの意見がありました。
しかし、修正は字句にとどまりました。
大飯原発3、4号機について、2014年5月、住民側の要求を認め、関電の地震対策に欠陥があるとして運転を差し止める判決が福井地裁で出されました。関電側が控訴し、裁判が継続中。判決が確定していないため、審査、検査が終了した場合運転が可能です。
今後、機器などの詳細な設計を定めた工事計画と緊急時の対策法などを定めた保安規定変更の認可、使用前検査があります。
解説・・危険な集中立地 考慮されず
原子力規制委員会による大飯原発3、4号機の設置変更許可で、関西電力は、新規制基準施行後に申請した3原発7基すべてが許可されました。
これらの原発は福井県の若狭湾周辺に位置します。若狭湾周辺は、廃炉中も含め15基もの原発がひしめく“原発銀座”です。しかし、規制委の審査では、それぞれの原発での重大事故対策のみです。集中立地で、地震などの災害で同時に複数の原発で事故が起きた場合の検討はされていません。
また、大飯原発の30キロ圏は3府県にまたがり、住民の避難計画の実行は困難と指摘されています。さらに、複数の原発で同時に事故が起きれば、避難は一層困難になります。しかし避難計画やその実効性については、規制委の審査の対象外です。
大飯原発の運転差し止めを求める住民側の要求を認める判決が福井地裁で出され、関電が控訴。先月、名古屋高裁金沢支部の控訴審では、前委員長代理の島崎邦彦東大名誉教授が住民側の証人として出廷し、大飯原発で想定すべき地震の揺れ(基準地震動)が過小評価であり、「必要な審査が行われていない」として許可を出すべきではないと証言しています。規制委は、基準地震動の評価を見直すこともなく許可しました。
住民の安全は考慮されず、前委員長代理の提起した問題への対応もあいまいなど問題が山積みのまま再稼働を進めるのは許されません。
(松沼環)
(「しんぶん赤旗」2017年5月25日より転載)
一審判決も島崎氏証言も無視した大飯原発・審査合格に強く抗議する
2017年5月24日
大飯原発訴訟福井弁護団 団長 島田 広
本日、原子力規制委員会は、大飯原発3・4号機につき、関西電力の安全対策が新規制基準の審査に合格したとする審査書を決定しました。一言で言えば,今回の規制委員会の判断は、同原発の運転を禁じた福井地裁判決を無視し、島崎証言に示された最新の科学的知見を無視するものであり、司法を極端に軽視し、原発の安全性確保という行政の責任を放棄するものというほかありません。かかる不当な決定に対し,当弁護団は、満腔の怒りを込めて強く抗議します。
2014年5月21日の大飯原発差止福井訴訟福井地裁判決は、大飯原発の基準地震動は小さすぎることを指摘し、同原発の運転を禁止しました。同判決は、事実上、新規制基準が緩やかに過ぎて、このままでは安全性を保障できないことをも指摘したのです。
控訴審においても、去る4月24日、原子力規制委員会委員長代理を務めた東京大学名誉教授島崎邦彦氏の証人尋問が行われ、4月27日に公表した弁護団声明でも指摘したとおり、過去の地震記録のない大飯原発について、入倉・三宅式を用いて基準地震動を計算すると著しい過小評価となることが解明されました。
それにもかかわらず、規制委員会は、原判決の指摘も島崎氏の知見も無視しました。同委員会は、「実際に起こった熊本地震本震について震源インバージョン解析を用いて計算した震源断層面積と地震モーメントとの関係は、入倉・三宅式と整合している」旨の4月26日付けの原子力規制庁技術基盤グループの見解を承認していますが、これは、島崎証言が指摘した問題点のすり替えに過ぎません。島崎証言の核心は、「熊本とは異なり実際の地震データがない大飯原発では、震源インバージョンによる震源断層の面積が計算できないため、入倉・三宅式を用いると基準地震動が著しく過小評価される」ということだからです。
規制委員会が安全性確保の責任を放棄する中で、裁判所が人権の最後の砦としての役割を発揮することが強く求められています。私たち弁護団一同は、最新の科学的知見である島崎証言を踏まえ、今回の安全審査の結果がこれを無視した不当なものであることを裁判所に強く訴え、勝利に向けてたたかい続けます。
以上
(引用=山本雅彦・大飯原発差止訴訟原告)