三菱重工業神戸造船所(三菱神前)が、「商船建造から撤退・原子力に特記」すると発表したのは2010年7月のことでした。その8ヵ月後、福島第1原発事故は起きました。いまや、安倍晋三首相のトップセールスによる新興国への原発プラント輸出か、国内再稼働にしか、企業の未来を描けない状態です。福島原発事故後も「原子力特化」に固執する会社の姿勢に、労働者からも疑問や不安の声が出ています。
(菅沼伸彦)
三菱神船は「造船所」とは名ばかりです。原子炉格納容器や圧力容器・蒸気発生器が主力の「原子力機器製作所」です。
三菱重工は、グループ間で事業集約を進めています。「原子力に特化」した神戸造船所からは、商船撤退以前にも、橋りょうやボイラーの生産を、横浜や長崎の事業所に移しました。
三菱重工の13年度事業計画では、原子力事業の中長期見通しについて、原発の売り上げをプラント輸出などで5000億円と見込んでいます。米国の老朽原発心臓部の機器交換など、部品の輸出で食いつないでいます。
揺れる労働現場
三菱神船は、原子力規制委員会の新規制基準をどうクリアするか、再稼働に向けたストレステスト(耐性試験)に没頭してきました。「原発事故後の方が忙しい」と労働者はいいます。
ある労働者は「三菱の原子炉は、事故炉(沸騰水型)とは違う加圧水型だ。日立みたいな事故は起こさない」。各電力会社と折衝したOBは「東京電力は官僚の集まり。リスクの感度も低い」といいます。
一方で、別のOBは「沸騰水型も加圧水型も、同じ軽水炉。根本的には同じかもしれない」。40歳前後の労働者は「福島の事故が解決していないのに、原発を輸出するのはどうか。『絶対に安全』はない」。原発の詳細設計をする子会社の労働者は「原発にこだわっていたら、会社は将来的にあかん気がする」と話します。
対話で「変化」も
日本共産党三菱神船委員会は、宣伝・対話を重ね、変化をつくり出しています。
ある労働者は原発事故直後、「東芝の技術者はすぐに(事故を)収束に向かわせますよ」といっていました。共産党のパンフ「『科学の目』で原発災害を考える」(不破哲三社会科学研究所所長)を届け感想を聞くと、「安全神話に侵されていたのかな」とぽつり。
原発固有の危険性を知ると、今では考え方にも変化が表れてきました。「原発は使用済み燃料がたまる一方だ。どうしようもない」。電力会社からは、廃炉に向け、費用や年数などの見積もりの依頼が来ています。「廃炉の世論が高まれば・・。廃炉には高い技術が必要だが、三菱にはそれがある」。働く者の思いは膨らみます。
自然エネ転換へ 高い技術生かせ・・日本共産党神船委員会・常見信夫委員長の話
原発稼働で、核兵器に転用できるプルトニウムができます。非核神戸方式の神戸港に、原発特化の企業はふさわしいでしょうか。三菱神船の労働者には、船づくりで培った高い技術があります。廃炉や自然エネルギーヘの転換にこそ、その技術を生かすべきです。
(「しんぶん赤旗」2014年7月23日より転載)