「東海第2発電所の原子炉を運転してはならない」―。昨年3月、水戸地裁が自治体の避難計画の不備を理由に日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の運転差し止めを命じました。自治体と同様に計画が求められる病院や社会福祉施設でも策定作業は進んでいません。再稼働の前提となっている計画策定の現状は―。(茨城県・高橋誠一郎)
避難計画は災害対策基本法などに基づき、半径30キロ圏内の自治体に策定が義務付けられています。病院や社会福祉施設も県の地域防災計画に策定が位置付けられており、知事など周辺自治体の首長は計画の策定を再稼働判断の前提にしています。
県は昨年10月の県議会予算特別委員会で、策定が30キロ圏内119の医療機関のうち39施設(32・80%)、486の福祉施設のうち280施設(57・60%)にとどまっていることを日本共産党の江尻加那県議に明らかにしました。知事は「全ての医療機関と社会福祉施設で計画が策定されることが必要」と答弁しています。
救急車141台必要
しかし策定されたとしても、患者や入所者がスムーズに避難できるかは不透明です。
本紙が情報公開請求で入手した茨城県立中央病院(笠間市)の計画によると、重症者の避難の際に必要とする救急車は141台。同病院の保有は1台のみです。『消防現勢』(2021年版)によると、県内にある高規格救急車の台数は計152台。事故が起きれば他の医療機関でも車両が必要になるため、同病院だけに集中できる保障はありません。
中等症者は福祉バスで避難する計画ですが、83台を必要とする一方で病院が保有する車両はなく、不足分は県が調達する想定です。
できるわけない
「原発事故が起きてどうやって避難するというのか。できるはずがない」―。そう言い切るのは、社会福祉法人「淑徳会」の伏屋淑子理事長(86)。村内で特養ホームなど8施設を運営しています。162床ある特養は満床。東海第2からの直線距離は約3キロしかありません。
夜間職員は国の基準にもとづき入所者25人に対し1人の配置。いつ起きるか分からない原発事故を懸念しています。「夜中に事故が起きれば対応できる職員はいない。そもそも要介護4や5の入所者がバスで避難できるわけがない」。避難車両の確保など課題は尽きません。
特養では、事故の際に入所者の家族に迎えに来られるか確認しているといいますが、大半は「来られない」との回答です。
伏屋さんは、東京電力福島第1原発事故をきっかけに原発の危険性を感じ、村内各地に東海第2の廃炉を求める大看板を設置。「東海村をつぶすな!原発はいらない!廃炉に」の大きな文字は通行人の目を引きます。「自分だけでなく子や孫の世代にまで影響し、すべてをだめにしてしまうのが原発事故。東海村には安全であってほしい」
(「しんぶん赤旗」2022年5月19日より転載)